就労移行支援事業所の安定運営に不可欠な人員配置。
本記事では最新基準から計算、減算回避のコツまで解説します。

減算回避!就労移行支援の人員配置・最重要基準3選

人員配置基準違反による「減算」は運営の大きな痛手です。
まず、特に注意すべき定員超過、必須職種、常勤換算の3つの基準を確認し、減算リスクを確実に回避しましょう。

定員超過ペナルティと対策

就労移行支援事業所では、定められた利用定員を超えてサービスを提供すると、報酬が減額される「定員超過減算」が適用されます。
具体的には、過去3ヶ月間の平均利用者数が定員の110%を超えると、超過した月から解消まで、基本報酬が一部減額されます。
※減額幅は年度により異なりますが、1人あたり数単位の減算となる場合があります。

このリスクを避けるためには、以下の対策を日頃から行うことが不可欠です。

    定員超過への対策

  • 日々の利用者数把握と記録:
  • 毎日の利用者数を正確に把握し、記録・管理する体制を整えましょう。

  • 受け入れ調整:
  • 定員が上限に近い場合は、新規利用者の受け入れ時期などを計画的に調整します。

  • 定員変更の検討・届け出:
  • 恒常的に定員に近い状況であれば、実態に合わせて定員変更の届け出を計画的に行いましょう。

これらの対策で、安定した事業所運営を目指しましょう。

参考元:厚生労働省|障害福祉サービス等報酬改定について(令和6年度)

必須職種(管理者・サビ管等)欠如リスクと確保術

人員配置基準では、管理者やサービス管理責任者(サビ管)、職業指導員、生活支援員、就労支援員といった職種の配置が義務付けられています。
これらの必須職種が必要な数だけ配置されていない場合、「人員欠如減算」として報酬が大幅に減額される可能性があります。
特にサビ管は利用者への個別支援計画作成など、サービスの質の根幹を担う重要な役割です。

欠員リスクを避けるためには、以下の確保術が考えられます。

    必須職種を確保するポイント

  • 計画的な採用活動:
  • 退職等を見越して、余裕を持った採用計画を立て、継続的に募集活動を行いましょう。

  • 資格取得支援:
  • 内部職員のスキルアップとして、サビ管等の資格取得を支援する制度を設けることも有効です。

  • 兼務規定の適切な活用:
  • 管理者の兼務など、認められている範囲での兼務規定を理解し、届け出の上で適切に活用します。

  • 日頃からの情報収集:
  • 急な退職に備え、人材紹介サービスや地域のネットワークなどを活用し、常に人材確保のアンテナを張っておきましょう。

これらがリスク管理の鍵となります。

常勤換算計算の基本と2025年度注意点

人員配置基準を満たしているか判断する上で、「常勤換算」での計算が基本となります。
これは、事業所で働く職員全体の勤務時間を、常勤職員何人分に相当するかで算出する方法です。
具体的には、「職員それぞれの1週間の勤務時間合計 ÷ その事業所の常勤職員が勤務すべき時間数」で計算します。
例えば、常勤が週40時間勤務の事業所で、週20時間勤務の非常勤職員2名なら、(20時間 + 20時間) ÷ 40時間 = 1.0となり、常勤換算で1名分となります。

2025年度(令和7年度)においては、短時間勤務の職員の扱いや、育児・介護休業中の職員に関する規定など、計算上の細かなルールが定められています。
計算ミスは意図せず人員欠如減算を招く恐れがあるため、厚生労働省の最新情報を常に確認し、正確な計算を心がけましょう。

2025年度 常勤換算の主な注意点

    計算時の確認ポイント

  • 常勤の勤務時間数:
  • 就業規則等で定められた事業所ごとの正しい時間数(例:週32時間~40時間)を把握してください。

  • 有給休暇等の扱い:
  • 出勤したものとみなし、勤務時間に含めて計算します。

  • 育児・介護休業法関連の短時間勤務:
  • 週30時間以上の勤務で常勤換算上1.0として扱える特例など、最新の規定を確認しましょう。

    参考元:厚生労働省|障害福祉サービス等の人員基準等に関するQ&A(令和6年度)

下の表は、常勤職員の週の所定労働時間が40時間の事業所を前提とした計算例です。

勤務時間 常勤換算
週40時間 1.0
週30時間 0.75
週20時間 0.5

常勤換算は、雇用形態(常勤・非常勤)に関わらず、職員の勤務時間を、ご自身の事業所が定める『常勤職員が勤務すべき時間数』で割って算出します。
また、実際の計算では、通常、過去4週間などの平均実勤務時間を用いますのでご注意ください。

就労移行支援の人員配置計算:落とし穴とレアケース対応法

人員配置基準の基本を押さえても、計算には意外な落とし穴が潜んでいます。
ここでは兼務や時短、テレワークといったレアケースや、行政監査での指摘事例など、運営者が見落としがちなポイントと対応法を解説します。

常勤換算:兼務・時短スタッフの計算方法【具体例】

複数の事業所や職務を兼務するスタッフ、あるいは時短勤務のスタッフがいる場合、常勤換算の計算は少し複雑になります。
例えば、A事業所(常勤週40時間)で週20時間、B事業所(常勤週40時間)で週20時間勤務するスタッフは、それぞれの事業所で常勤換算0.5名分と計算されます(合計で1.0名)。

時短勤務の場合も同様に、実際の勤務時間を常勤の勤務時間で割って算出します。
ただし、育児・介護休業法に基づく時短措置の場合は、週30時間以上の勤務で常勤換算上1.0名とみなす特例なども存在します(適用要件は必ず最新の規定をご確認ください)。
雇用契約や実際の勤務時間を正確に把握し、それぞれのケースに合わせて正しく計算することが重要です。

開設・定員変更時の経過措置と活用ステップ

就労移行支援事業所を新たに開設した場合や、定員を変更(増減)した場合、人員配置基準の適用には一定の「経過措置」期間が設けられています。
これは、すぐに利用者実績に基づいた人員配置が困難なことを考慮したものです。
一般的に、開設や定員変更から一定期間(例:6ヶ月間など。期間は必ず自治体にご確認ください)は、見込みの利用者数等に基づいて算出した人員配置でも認められる場合があります。
この期間を有効に活用し、段階的に必要な人員を採用・育成していくことが可能です。

ただし、経過措置の適用を受けるためには、指定申請時や変更届提出時に、人員配置に関する計画などを適切に示す必要がある場合があります。
自治体の担当部署に確認し、計画的にステップを踏んで活用しましょう。

テレワーク可能な職種は?人員配置の最新動向と確認点

人員配置基準におけるテレワークの取り扱いについて、令和6年3月29日の国通知(※)で一部明確化されました。
管理者は、管理上支障がない範囲(緊急時対応・出勤体制確保など)でテレワークが可能です。
ただし、具体的な運用は注意が必要です。

一方、管理者以外の職種は、直接処遇業務が原則不可な上、それ以外の業務も統一的な取り扱いは未だ明確ではありません。
テレワークでの人員配置カウントは、職種に関わらず、必ず事前に指定権者(都道府県・市町村)へ最新の取り扱いを確認しましょう。
適切な労務管理等も必須です。

参考元:厚生労働省|障害福祉サービス事業所・施設等におけるテレワークに関する留意事項について

行政監査での指摘事例と予防策【人員配置】

行政監査(実地指導)では、人員配置基準の遵守状況は重点的に確認される項目の一つです。
これらの指摘は、報酬減算に直結するだけでなく、事業所の信頼性にも関わります。

    人員配置に関する主な指摘事例

  • 常勤換算の計算誤り:
  • 勤務時間の集計ミスや計算方法の誤解による基準割れ。

  • 資格要件を満たさない職員の配置:
  • 特にサビ管の要件(実務経験や研修修了)を満たしていないケース。

  • 勤務実態と異なる書類:
  • 勤務形態一覧表(シフト表)と実際の勤務状況が一致していない。

  • 変更届の未提出:
  • 人員に変更があったにも関わらず、必要な届け出がされていない。

これらの指摘を受けないための予防策は以下の通りです。

    指摘を防ぐための予防策

  • 正確な記録管理:
  • 日々の勤務実績や資格証などを適切に管理・保管しましょう。

  • 定期的な内部チェック:
  • 人員配置状況や書類に不備がないか、定期的に内部で確認する体制を作ります。

  • 職員研修の実施:
  • 人員配置基準や関連規定について、職員の理解を深める研修を行いましょう。

  • 不明点の早期確認:
  • 基準や解釈に不明な点があれば、早めに指定権者である自治体に確認することが重要です。

参考元:厚生労働省|障害福祉分野における運営指導・監査の強化について

職種別!人員配置成功の鍵とサビ管の質

人員配置基準を満たすだけではなく、質の高い支援を実現するには各職種の役割理解と連携が不可欠です。

(そもそも就労移行支援では何をするのか、基本的なサービス内容について詳しく知りたい方は下記のの記事をご覧ください。)

ここでは管理者、サビ管、職業指導員、生活支援員、就労支援員の役割と、特に重要なサビ管の質について解説します。

管理者の責務とリーダーシップの両立

事業所の管理者は、人員基準上、原則として専従での配置が求められます。(※管理業務を妨げない範囲での兼務は可能です。詳細は自治体や厚生労働省通知をご確認ください。)
その責務は、職員の労務管理、事業所の収支管理、関係機関との連携など多岐にわたります。

単に基準上のポストを埋めるだけでなく、事業所全体の方向性を示し、職員をまとめ、質の高いサービス提供へと導くリーダーシップを発揮することが極めて重要です。
そのためには、適切な権限委譲、風通しの良いコミュニケーション、そして管理者自身の継続的な学び(自己研鑽)が求められます。
責務とリーダーシップを両立させることが、安定した事業所運営の基盤となります。

サビ管:支援と運営を支える中核【求人・転職での見極め方】

サービス管理責任者(サビ管)は、就労移行支援において法令で配置が義務付けられている職種であり、利用者一人ひとりの個別支援計画作成を中心に、多職種連携の要となり、事業所のサービス品質全体を左右する、まさに支援と運営の中核を担う存在です。
人員配置基準上の必須職種であることはもちろん、サビ管の経験や人柄、スキルといった「質」が、事業所の雰囲気や利用者満足度に直結します。

良いサビ管を採用したい、あるいは自身が良いサビ管として活躍できる職場を探したい場合、求人情報からは事業所の理念や研修体制、チーム支援の方針などを読み解きましょう。
面接では、具体的な支援事例や多職種連携への考え方、困難事例への対応などを確認することが、質の高いサビ管、あるいは自身が輝ける職場を見極めるヒントになります。

職業指導員・生活支援員の配置と連携ヒント

職業指導員や生活支援員は、利用者に対して職業スキル訓練や日常生活能力向上のための支援など、最も身近な立場で直接的なサポートを提供する職種です。
人員配置基準では、利用者数に応じて「6対1」などの比率で配置することが定められています。
基準を満たす人数を配置することは前提ですが、質の高い支援のためには、それぞれの専門性を活かした「連携」が欠かせません。

効果的な連携のためのヒントは以下の通りです。

    職業指導員・生活支援員の連携ヒント

  • 情報共有の仕組み化:
  • 日々の支援記録を電子化するなど、スタッフ間でスムーズに情報共有できる仕組みを整えます。

  • 定期的なカンファレンス:
  • サービス担当者会議などを定期的に実施し、多職種で利用者の状況や支援方針を確認・共有します。

  • 互いの専門性の尊重:
  • それぞれの職種が持つ専門知識や視点を尊重し、学び合う姿勢を持つことで、より多角的な支援が可能になります。

  • 役割分担の明確化と協力体制:
  • 基本的な役割分担は明確にしつつ、状況に応じて協力し合えるチームワークを醸成しましょう。

チームとして機能することで、利用者へのより手厚いサポートが可能になります。

就労支援員の配置義務と専門的役割

就労移行支援では、職業指導員・生活支援員とは別に、専任の就労支援員を1名以上配置することが人員配置基準として定められています。
他の職務との兼務が難しい場合もあり、人員配置上の重要なポイントです。

しかし、就労支援員の役割は単に配置義務を満たすだけではありません。
ハローワークや企業と連携した求人開拓、利用者の適性に合わせた職場実習のマッチング、そして就職後の職場定着支援といった、利用者の「就職」という目標達成に直結する専門的な役割を担っています。
高い就職率・定着率を実現するためには、就労支援員の企業に対する交渉力や、利用者の強み・課題を的確に把握するアセスメント能力、細やかなフォローアップといった専門性が求められます。

まとめ:就労移行支援の人員配置を強みに変え安定運営へ

就労移行支援の人員配置は、単なる義務ではなく、事業所の質と安定運営を左右する重要な要素です。
この記事で解説したポイントを実践し、人員配置を事業所の「強み」へと変えていきましょう。

    人員配置基準遵守のためのチェックポイント

  • 減算に直結する3大基準は常に意識する:
  • 定員超過、必須職種の欠如、常勤換算の誤りは絶対に避けましょう。

  • 計算は基本+レアケースも把握する:
  • 常勤換算の基本はもちろん、兼務・時短・テレワーク等の計算方法や経過措置、監査事例も理解しておきましょう。

  • 職種ごとの役割理解と連携を深める:
  • 管理者、サビ管、指導員、支援員それぞれの役割を理解し、チームとして機能することが質の高い支援につながります。

  • 特にサービス管理責任者(サビ管)の質は重要視する:
  • 支援計画作成から運営の中核まで担うサビ管の質が、事業所全体のレベルを決めると言っても過言ではありません。

    適切な人員配置がもたらすメリット

  • 安定した事業所経営:
  • 減算リスクを回避し、健全な運営基盤を築くことができます。

  • 利用者満足度の向上:
  • 質の高い個別支援計画に基づいた、手厚いサポートを提供できます。

  • 職員の定着と成長:
  • 働きがいのある職場環境は、専門性の高い人材の確保・育成につながります。

本記事が、人員配置体制を見直す際の一助となれば幸いです。
日々の運営のなかで、少しずつでも改善を積み重ねていくことが、
利用者や職員、そして事業所にとってより良い方向につながる可能性を広げてくれるかもしれません。